近年では、10種類以上の薬を飲んでいる患者さんが多いという状況を反省する考え方が生まれてきました。主に高齢者に対して多くの種類の薬を出しすぎることは「ポリファーマシー」と呼び、不要な薬を減らしていくべきであるという働きがあるのです。では、どのようにしたら、薬を減らして行けるのでしょうか。
どれも必要であるとして飲んでいる薬ですので、なんの根拠もなく減らしていくのは、医者の役割として違います。薬を減らしていく方法の一例を説明してみたいと思います。まずは、ガイドラインや数冊の教科書をチェックして、高齢の患者さんに対して、投与を控えるべき薬と、推奨すべき薬を調べ、リストアップします。そして次に、患者さん一人一人のカルテを詳細にチェックして、この薬はこの患者さんには必要ない、この薬は一旦服用をやめてみて様子を見てみようというように薬を減らしていきます。
この方法を実践することによって、全体で約3割の薬を減らすことに成功しましたという例があります。減らしたり、または中止したりした薬というのは、主に、胃薬、尿を出しむくみをへらすための薬である利尿剤、鎮痛剤、睡眠剤でした。実際に薬を減らした後は患者さんの症状や様子に変化は無いか、悪いことがおきないか等を慎重に診る必要はあります。少しの変化でも、見逃すと悪化してしまう可能性があるからです。しかし、この例では症状が悪化した患者さんはいませんでした。
このように、実際には薬を飲まなくても健康状態に大きな変化がないということもあるので、患者さんの病状や意見を聞きつつ、しっかりと様子を見ることで薬を減らせることもあるということです。もしかしたら、飲まなくても体調に影響のない薬をたくさん飲んでいる可能性もあります。
しかし、患者さん自身から、薬を減らしたいと言いにくいと思っている患者さんも多いかもしれません。医者が飲むべきだと処方してくれている薬ですから、自分には必要なのだろうと思いますよね。そのため、なかなか、言えない患者さんもいると思います。
しかし、言いづらいかもしれませんが、患者さんから薬を減らしたいと言われても、怒ったり、それほど嫌な顔をする医者はいないであろうと思います。よっぽど、その患者さんに必要である薬であれば減らせないと言われることはあるかもしれませんが、基本的には、患者さんの意見を尊重してくれるでしょう。
なぜなら、薬の処方を減らしたからといって医者にとってのインセンティブには影響がないからです。インセンティブというのは動機づけという意味で、医者にとってのインセンティブは収入と、患者さんの症状が良くなるということです。薬を減らすことによって患者さんの病状が悪化せず、患者さんの負担も減るのであれば、医者もその治療方法に賛成するでしょう。